運営指導の通知が届いた
何年分の書類を見られるか
当日までに決めること
運営指導(旧・実地指導)で確認されるのは、原則として運営指導の前年度から直近の実績に係る書類です。国が自治体に示した指導指針「指定障害福祉サービス事業者等指導指針」(令和8年(2026年)6月8日 障発0608第1号 別添1 第5の2(3)④)がそう定めています。準備の目安もここに置けますが、実際に何を出すかは通知の「準備すべき書類等」が決めます。ただしこの指針は技術的助言で、実際に求める年数は指定権者ごとに幅があります。通知の「準備すべき書類等」で対象期間を確かめ、書いていなければ担当者に聞いてください。
一方で、記録を残す義務は5年間です。前年度分だけ見られるからといって、古い記録を捨ててよいわけではありません。国の省令は「提供した日から五年間」としていますが、東京都のように条例で「当該記録に係る事象の完結の日から五年間」と起算日を変えている自治体があります。年数と起算日は、省令ではなく所在地の条例で確認します。
目次
運営指導の通知は、原則として実施予定日の1か月前までに届きます。僕も就労継続支援B型を運営しているので、この通知は他人事ではありません。経営者が最初に困るのは「準備すべき書類等」の一覧の長さで、しかも何年分なのかが一覧から読み取れないこともあります。5年分の段ボールを積むのか、去年の分だけでいいのか、ここで迷います。読み違えると、当日までの1か月がまるごと書類探しで消えます。
この記事は、僕が指導指針と運営指導マニュアルを読んで、経営者はこの順番で決めればいいと整理したものです。うちは2026年5月に開所したばかりの事業所なので、僕自身の準備メモでもあります。先に答えを言うと、見られるのは原則「前年度から直近」、残すのは「5年分」です。この2つは別の数字なので、混ぜると判断を誤ります。
見られるのは何年分か。原則は「前年度から直近」
見られるのは、原則として運営指導の前年度から直近の実績に係る書類です。国が自治体に示している指導指針に、はっきりそう書いてあります。準備の目安もここに置けます。ただし実際に何を出すかは、通知の「準備すべき書類等」が決めます。残す義務はまた別の話で、次の節で書きます。
正直、僕も最初に読んだときは「前年度からでいいのか」と思いました。ただ、この「原則」には但し書きが2つあって、ここを飛ばすとあとで困ります。
1つ目は指針の性格です。この通知は地方自治法第245条の4第1項に基づく技術的な助言で、自治体を縛る命令ではありません。だから「前年度から直近」がどこでも同じに運用される保証はないわけです。実際に何年分を出すかは、実施通知の「準備すべき書類等」で確かめるのが確実です。年度が読み取れなければ、指定権者の担当者に電話で聞く。1本の電話で残り1か月の作業量が決まるので、ここをためらう理由はないと思っています。
2つ目は加算です。運営指導マニュアルは、各種加算に係る自立支援給付請求の確認について、人員体制に関するもの等のほかは確認文書に限定せず、それぞれの要件にかかる文書等を求めるとしています。人員体制以外の加算は確認文書に限らないということです。長く算定している加算ほど、算定を始めた時点の届出や要件を満たしていた記録まで遡って求められる可能性があります。加算を多く取っている事業所ほど「前年度から」を鵜呑みにしてはいけない、というのが僕の読み方です。
では古い記録は捨ててよいのか。5年は残す
捨ててはいけません。見られるのが前年度からでも、記録を残す義務は別に置かれていて、期間は5年です。根拠は平成18年厚生労働省令第171号(指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準)の「記録の整備」の条文です。就労継続支援B型は第202条で療養介護の第75条を準用する形になっていて、次の6種類の記録を、サービスを提供した日から5年間保存することが求められます。
| 保存対象の記録(就労継続支援B型の例) | 根拠(準用元) |
|---|---|
| 就労継続支援B型計画 | 第58条第1項 |
| サービスの提供の記録 | 第19条第1項 |
| 市町村への通知に係る記録 | 第88条 |
| 身体拘束等の記録 | 第35条の2第2項 |
| 苦情の内容等の記録 | 第39条第2項 |
| 事故の状況及び事故に際して採った処置についての記録 | 第40条第2項 |
同じ条文の第1項にある「従業者、設備、備品及び会計に関する諸記録」には、省令上の保存年限がありません。整備する義務だけが置かれています。
ここからが、僕が「知らなかったら怖い」と思った部分です。省令に書いていないのに5年とされている記録があります。虐待防止委員会と身体拘束適正化検討委員会の議事録です。国の解釈通知が、どちらの対応状況も適切に記録したうえで5年間保存するよう求めています。議事録を3年などで運用している事業所は、見直しておきたい部分です。対応状況の記録の中心は議事録なので、5年で揃えるのが安全だと思っています。
労務の書類は別の法律です。労働基準法第109条は、労働者名簿・賃金台帳・雇入れ・解雇・災害補償・賃金その他労働関係に関する重要な書類を5年間保存すると定めています。ただし同法附則第143条第1項により、当分の間は3年間と読み替えられます。とはいえ運営指導では出勤簿や雇用契約書も確認文書に挙がります。3年で捨てると、労基法の上では問題なくても障害福祉側の確認で困ります。だから僕は、労務の書類も5年に揃えておくほうが安全だと考えています。「3年で捨ててよい」は法律としては正しくても、経営判断としては損だと思います。
その5年は、いつから数えるのか。自治体で違う
数え始めの日は、所在地の条例で決まります。これは見落としやすいところです。指定障害福祉サービスの基準は都道府県・指定都市・中核市が条例で定めることになっていて、国の省令はその条例を作るときの基準を示すものです。省令第1条は、どの規定が「従うべき基準」でどれが「参酌すべき基準」かを列挙しています。記録の整備の条文はこの列挙に入っていません。つまり参酌すべき基準なので、自治体は地域の実情に応じて中身を変えられます。
「変えられる」と言われても実感がわかないと思うので、実際に読み比べます。
| 記録の保存に関する定め | |
|---|---|
| 国の省令(平成18年厚生労働省令第171号 第42条第2項) | 当該指定居宅介護を提供した日から五年間保存 |
| 石川県条例(平成24年12月27日条例第53号 第43条第2項) | 当該指定居宅介護を提供した日から五年間保存 |
| 東京都条例(平成24年東京都条例第155号 第42条第2項) | 当該記録に係る事象の完結の日から五年間保存 |
年数はどれも5年です。違うのは起算日で、東京都は「当該記録に係る事象の完結の日」から数えます。契約期間が長い利用者では、国の省令どおりに提供日から数えた場合より保存期間が長くなります。条番号も国と条例で一致しません。石川県は同じ内容が第43条にあります。
運営指導の指摘で引用されるのは、条例の条番号です。だから一度でいいので、所在地の条例を開いてください。見るのは2点だけです。「記録の整備」が何条にあるかと、起算日がどう書かれているかです。短い作業ですが、当日に条番号を言われて慌てるのを防げます。
通知から当日まで、何がどの順で起きるか
流れは5段階で、通知が1か月前、当日は巡回と書類の確認、後日に文書で指摘が来ます。指導指針とマニュアルから読み取れる標準的な流れは次のとおりです。
| 時期 | 起きること・やること |
|---|---|
| 実施予定日の1か月前まで | 実施通知が届く。根拠規定・目的、日時・場所、指導担当者、出席者、準備すべき書類等、当日のおおむねの流れが記載される |
| 通知後 | 自治体から事前提出資料を求められる場合がある(必須ではない)。自己点検シートの提出を求める自治体が多い |
| 当日の冒頭 | 平面図を見ながら施設内を巡回。設備の実態と、虐待や不適切な身体拘束の予兆を目視で確認される |
| 当日 | 利用者3名程度を抽出し、個別支援計画からサービス提供記録までの一連の流れを確認。続いて運営体制、報酬請求の確認 |
| 後日 | 改善を要する事項について文書で通知。指摘事項に係る改善報告書の提出を求められる |
準備の量を減らせる決まりが3つあります。読んでいて「それを先に言ってほしい」と思った部分です。まず、準備すべき書類は原則として一次資料ですが、写しでも構わないとされています。次に、提出部数は事前・当日とも1部で、指定申請等で提出済みかつ内容に変更のない書類は再提出不要です。事前提出資料と当日確認資料の重複や、法人内で同じ書類を事業所ごとに重ねて出すことも避けるよう明記されています。最後に、書類を電子で管理している事業者には、印刷を求めずパソコン画面上で確認するなど配慮した方法をとるとされています。画面での確認が認められているので、事前に伝えておくと当日の印刷を避けられます。うちはパソコン作業が中心で、勤怠も日報もクラウドに残している事業所なので、助かる決まりだと思っています。
なお、通知なしで来ることもあります。障害者虐待が疑われる場合や、不正請求のための文書改ざんが疑われる場合などです。事前に知らせると日常のサービス提供状況を確認できないと認められるときは、通知なしで実施し、指導開始時に文書で通知することができます。
通知が届いた日に決めることは、3つに絞れると思っています。
1つ目は、出す年度を確定させることです。通知の「準備すべき書類等」に年度の記載がなければ、その日のうちに指定権者の担当者へ確認します。ここが決まらないと、残りの準備の量が決まりません。
2つ目は、減らせる提出物を先に申し出ることです。指定申請時に出して以降変更のない書類は再提出不要とされているので、該当するものを挙げて確認します。電子で管理しているなら、画面での確認を希望する旨もこのときに伝えます。
3つ目は、自治体が公開している確認項目・確認文書の一覧と手元の書類を突き合わせて、無いものを洗い出すことです。国の様式は確認項目ごとに必要な文書を列挙しているので、項目単位でファイルを分けると当日の出し入れが速くなります。
※これは制度上の必須要件ではなく、一次情報から導ける運用例です。
当日、書類で何を証明させられるか
証明させられるのは「体制があること」ではなく、「体制があると書類で示せること」です。令和8年6月に新設された「確認項目及び確認文書」は、サービスごとに「個別サービスの質に関する事項」と「個別サービスの質を確保するための体制に関する事項」の2区分に分かれています。就労継続支援B型の体制側には、たとえば次のような項目が並びます。原典の並びではなく、書類の性格でまとめ直しています。
- 従業者の員数、管理者、勤務体制の確保等、定員の遵守
- 受給資格の確認、利用者負担額等の受領、運営規程
- 緊急時等の対応、事故発生時の対応、非常災害対策、業務継続計画の策定等
- 虐待の防止
- 秘密保持等、情報の提供等、苦情解決、衛生管理等
たとえば虐待の防止なら、確認文書は3点です。委員会議事録、研修を実施したことが分かる書類、担当者を配置していることが分かる書類です。業務継続計画の策定等なら、計画そのものに加えて、周知記録(配布記録、説明記録等)、研修・訓練記録、見直し記録等が挙がっています。
つまり、委員会を開いていても研修をやっていても、記録が残っていなければ「実施していない」と扱われる可能性があります。補助金の申請代行をしていても同じ場面に出会います。証憑が揃わない経費は、実際に使っていても補助の対象から落ちます。やった証拠を紙か画面で出せるかが、当日に問われることの中心です。「やっていない」と言われるより、「やったのに証明できない」ほうがよほど悔しいと思います。だから僕は、記録は支援のおまけではなく、支援の一部だと考えています。
最後に。運営指導は怖いものとして語られがちですが、指針とマニュアルを読む限り、求められているのは「やっていることを書類で示す」ことに尽きます。通知から当日まで、原則1か月あります。その1か月を書類探しで消さないための順番が、まず電話、次に条例、それから突合です。結局、この順番が一番大事だと思っています。
あわせて読む
運営指導そのものの位置づけと、指摘の傾向は別の記事にまとめています。
- 運営指導とは何か … 指導の対象範囲と目的
- 運営指導と監査の違い … 監査に切り替わる条件
- 運営指導で指摘されやすいこと … 実際に多い指摘項目
体制側の書類をこれから整える場合は、次の3本が入口です。
- 確認文書の範囲
- 原則として運営指導の前年度から直近の実績に係る書類(令和8年6月8日 障発0608第1号 別添1 第5の2(3)④)
- 記録の保存義務
- サービス提供に関する記録は5年間。国の省令は「提供した日から」起算
- 条例による違い
- 東京都の条例は「当該記録に係る事象の完結の日から五年間」。年数・起算日・条番号は条例で確認する
- 事前通知
- 原則として実施予定日の1か月前まで。虐待や文書改ざんが疑われる場合は事前通知なし
- 提出部数
- 事前・当日とも1部。自治体が既に保有している文書は再提出不要
- 利用者記録の確認人数
- 特に必要と判断する場合を除き原則3名以内
よくある質問
自分の地域には、
どれくらい利用者候補がいる?
所在地をもとに、周辺人口・障害福祉事業所数・紹介元になる相談支援事業所の数などを簡易集計します。これから開設する方には出せる場所と参入余地を、すでに運営している方には商圏内の競合と紹介元の分布を、目的にあわせて整理します。
その場でダウンロードできる資料ではありません。いただいた内容をもとに1件ずつ作成し、2〜3営業日以内にメールでお送りします。
