運営指導と監査は何が違うのか
根拠条文と目的で切り分ける
監査に切り替わる4つの場面
運営指導(旧・実地指導)と監査は、根拠となる条文が別です。運営指導は障害者総合支援法(平成17年法律第123号)第10条第1項および第11条第2項に基づく行政指導で、基準等に定める取扱いを事業者に周知徹底させることを方針としています。監査は同法第48条(報告等・立入検査)、第49条(勧告、命令等)、第50条(指定の取消し等)に基づき、指定基準違反等について事実関係を的確に把握し、公正かつ適切な措置をとることを主眼とするものです。厚生労働省の集団指導・運営指導マニュアルも「指導と監査の権限が法律により明確に分けられている」と述べています(令和8年6月時点)。
結果として起こることも別です。運営指導では改善を要すると認められた事項が後日文書で通知され、事業者は改善報告書の提出を求められます。監査で指定基準違反等が認められた場合は、法第49条の勧告(従わなければ公表することができる)、同条第4項の命令(命令をしたときは公示しなければならない)、法第50条第1項の指定の取消しまたは期間を定めた効力の全部・一部停止へ進みます。不正の行為による給付費の受給があれば、法第8条第2項により、原則として返還額に100分の40を乗じた額が併せて徴収されます。
目次
根拠条文が最初から別になっている
運営指導と監査を混同しやすいのは、どちらも自治体の職員が事業所に来て書類を見るからです。しかし障害者総合支援法の中では、この2つは別々の条文で立てられています。
指導指針第1は、運営指導の根拠を法第10条第1項(市町村等が自立支援給付に関して行う報告の求め等)と法第11条第2項(都道府県知事が自立支援給付対象サービス等を行った者に対して行う質問等)としています。一方の監査指針第1は、監査の根拠を法第48条、第49条および第50条としています。監査マニュアル3.1も、普段行われている運営指導は法第10条第1項および第11条第2項に基づいて実施されるものだと明記したうえで、監査としての立入検査はそれとは別の目的で行うと説明しています。
集団指導・運営指導マニュアルは自治体向けの記述の中で、障害福祉制度においては指導と監査の権限が法律により明確に分けられている、と書いています。事業所に届く通知書の「根拠規定」の欄を見れば、いま何をされているのかが判別できるということです。
4点で切り分ける
| 運営指導(旧・実地指導) | 監査 | |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 法第10条第1項、第11条第2項 | 法第48条、第49条、第50条 |
| 法的性質 | 行政指導(行政手続法第2条第6号) | 立入検査等の行政調査と、それに続く行政処分 |
| 目的・方針 | 基準等に定める取扱いや請求に関する事項を周知徹底させること | 指定基準違反等について事実関係を的確に把握し、公正かつ適切な措置をとること |
| 実施主体 | 都道府県または市町村。単独実施が一般指導、都道府県と市町村(指定都市・中核市を除く)の合同実施が合同指導 | 指定権限のある都道府県知事または市町村長 |
| 事前通知 | 原則として実施予定日の1か月前までに文書。障害者虐待が疑われている等の場合は指導開始時に文書で通知 | 監査開始時に文書で実施通知。当日で構わない。運営指導からの移行時は口頭通告も可 |
| 結果 | 改善を要する事項を後日文書で通知し、改善報告書の提出を求める | 軽微な事項は文書通知と報告。指定基準違反等が認められれば勧告・命令・指定の取消し等 |
法的性質の違いは、指摘への向き合い方に直結します。集団指導・運営指導マニュアルは、指導が行政指導である以上、相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであり、行政指導に従わなかったことのみを理由に不利益な取扱いをすることはできない(行政手続法第32条第2項)と説明しています。ただし同じ箇所で、従わなかった場合には理由を分析して対応を検討し、法令違反やその疑いが認められる場合には監査を実施すると続きます。運営指導の指摘を放置することは、処分に直結しない代わりに監査の端緒になります。
監査の側には強制力の裏付けがあります。監査マニュアル3.6によれば、監査を忌避した場合は指定取消や効力停止の対象になるだけでなく、法第111条により30万円以下の罰金が科され、法人の業務として行われた場合は法第112条の両罰規定により法人にも罰金刑が科されます。
監査に切り替わる4つの場面
指導指針第6は、運営指導中に次のいずれかを確認した場合、運営指導を中止して直ちに監査を行うと定めています。4つとも「その疑いがあると認められる場合」を含む書き方になっている点が重要です。確定していなくても移行します。
- 人員、施設・設備および運営に関する基準に従っていない状況が著しいと認められる場合
- 自立支援給付に係る費用の請求等について不正があると認められる場合
- 不正の手段による指定等を受けていると認められる場合
- 障害者虐待等により利用者等の生命または身体の安全に危害を及ぼしていると認められる場合
集団指導・運営指導マニュアルは、それぞれについて具体例を挙げています。1つ目は、単なる解釈上の誤りとはいえず改善指導では改善が期待できない場合として、同様の誤りが数多く見られる場合、それが長期にわたる場合、確認文書の不備等により確認項目が確認できない場合、虚偽報告や虚偽答弁が疑われる場合を挙げています。2つ目は、報酬基準の解釈誤りではなく架空請求等の請求する根拠のない請求です。3つ目は、初めから勤務する予定のない者を勤務するかのように装って指定を受けたような場合が典型として示されています。4つ目については、適切な手続きを経ていない身体的拘束等が行われている場合も含めて、直ちに監査に変更するとされています。身体拘束の記録や手続きの整備状況は、身体拘束の適正化の記事で扱う省令上の義務であると同時に、監査への分岐点にもなっているということです。
運営指導の実施通知が届いたら、まず通知書の「運営指導の根拠規定及び目的」の欄を確認してください。指導指針第5の2(1)は、根拠規定と目的、日時・場所、指導担当者、出席者、準備すべき書類等の5点を文書で通知することと、当日のおおむねの流れをあらかじめ示すことを求めています。ここに法第10条第1項・第11条第2項と書かれていれば運営指導、法第48条であれば監査です。
そのうえで、令和8年6月に新設されたサービス別の「確認項目及び確認文書」で自己点検を行っておくと、当日に見られる範囲を事前に読めます。指導指針第3の2(3)は、運営指導(実施状況指導と最低基準等運営体制指導に限る)では確認項目以外の項目は特段の事情がない限り確認せず、確認文書以外の文書は原則求めないと定めているため、点検範囲はこのシートで確定できます。準備する書類は原則として前年度から直近の実績に係るもの、提出部数は1部、自治体が既に保有している文書の再提出は不要です。対応者を管理者に限る必要はなく、実情に詳しい従業者や法人の労務・会計担当者が同席して差し支えないと通知に明記されています。
※これは制度上の必須要件ではなく、一次情報から導ける運用例です。
監査の先にある行政上の措置
監査指針第4(3)は、指定基準違反等が認められた場合の行政上の措置を、勧告、命令、指定の取消し等の順で示しています。条文で追うと次の流れです。
法第49条第1項・第2項により、期限を定めて基準を遵守すべきことを勧告できます。期限内に従わなかったときは、同条第3項により、その旨を公表することができます。正当な理由なく勧告に係る措置をとらなかったときは、同条第4項により命令ができ、命令をしたときは同条第5項により公示しなければなりません。そして法第50条第1項各号のいずれかに該当する場合は、指定の取消しまたは期間を定めた指定の全部もしくは一部の効力停止ができます。
ここで見落とされやすいのが、勧告から始まるとは限らないという点です。監査マニュアル4.2.2は、勧告を行うことができるのは人員基準違反、運営基準違反、事業を休廃止する際の便宜提供義務違反に限られると述べ、人格尊重義務違反や不正請求については勧告を行うことができないと明記しています。障害者虐待は法第42条第3項の人格尊重義務の違反として扱われるため、段階を踏まずに法第50条の処分の検討に入ります。
令和8年6月の監査マニュアルには、処分の程度を分類した「処分基準の考え方の例」が新たに置かれました。
| 処分事由 | 態様 | 基本となる処分内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 人員基準違反 | A級 | 勧告 | 法第50条第1項第4号 |
| 運営基準違反 | A級 | 勧告 | 法第50条第1項第5号 |
| 人格尊重義務違反 | C級 | 指定の全部効力停止 | 法第50条第1項第3号 |
| 不正請求 | C級 | 指定の全部効力停止 | 法第50条第1項第6号 |
| 不正の手段による指定 | C級 | 指定の全部効力停止 | 法第50条第1項第9号 |
態様の内容は、A級が勧告(人員基準違反・運営基準違反時のみ)または勧告以外の行政指導、B級2号が指定の一部効力停止3月(新規利用者受入停止等)、C級2号が指定の全部効力停止3月、D級が指定取消です。これはあくまで基本形で、個別事情による加重・軽減が行われます。監査マニュアル4.4.1のSTEP2が挙げる着眼点は、利用者被害と法益侵害の様態・程度、故意性の有無、常習性の有無、組織性の有無、悪質性の有無の5つです。組織性の欄には、問題を認識した後に隠ぺいを図るなど悪質な行為が認められたかという観点が含まれています。効力の一部停止の具体的内容としては、新規利用者の受入停止のほか、期間を限定して報酬額を通常の70%とするなどの請求額の上限設定が想定されています。
処分の前には手続きが入ります。監査指針第4(4)により、命令または指定の取消し等に該当すると認められる場合は、行政手続法第13条第1項各号に基づく聴聞または弁明の機会の付与を行わなければなりません。監査マニュアル4.2.5は、指定取消を行う際は必ず事前に聴聞を行わなければならず、弁明の機会の付与をもって聴聞に代えることはできないとしています。
金銭面では、監査指針第4(5)が経済上の措置を定めています。取消処分等(命令を除く)を行った場合に、偽りその他不正の行為により自立支援給付費の支給を受けていたときは、支払った額につき返還させたうえで、原則としてその返還させるべき額に100分の40を乗じて得た額を併せて徴収します。根拠は法第8条第2項です。
廃止届で逃げる想定はすでに封じられている
監査マニュアル3.7は、処分逃れを目的とした廃止届への対策を2段構えで説明しています。1つは事前届出制で、事業の廃止の届出は廃止日の1か月前までに行う必要があるため(法第46条第2項)、廃止届が出ても少なくとも1か月は事業所が存在し、その間に指定取消等を行うことができます。もう1つは欠格事由で、立入検査が行われた日から10日以内に聴聞決定予定日を通知した場合、立入検査の日から聴聞決定予定日までの間に廃止届を提出した事業者は、相当の理由がある場合を除いて指定・更新の欠格事由に該当します(法第36条第3項第9号)。聴聞決定予定日は、立入検査を行った日から聴聞の要否が決定すると見込まれる60日以内の特定の日です。
なお、指定を取り消したときは法第51条第4号により公示されます。指定の全部または一部の効力を停止した場合については法令上の公示義務はありませんが、監査マニュアルは指定権者が必要に応じて情報提供を行うことがあるとしています。
頻度が上がっている前提で構える
厚生労働省とこども家庭庁は、令和7年度から運営指導・監査の強化を進めているとしています。就労継続支援A型、就労継続支援B型、共同生活援助、児童発達支援、放課後等デイサービスの5サービスが重点化の対象で、指導指針第3の2(2)は、就労継続支援A型・B型と共同生活援助の事業所について3年に1回以上の頻度で運営指導を実施すると定めました。就労継続支援A型は、新規指定の半年後を目途に初回の運営指導を実施するとされています。
対象5サービス平均の運営指導実施率は令和5年度が18.0%、令和6年度が19.0%で、3年に1回に相当する約33%とはまだ差があります。令和7年度の実績は令和8年夏以降に集計される予定で、2026年8月16日時点では公表されていません。実施率が目標に向かって上がれば、これまで運営指導を受けずに済んでいた事業所にも順番が回ります。準備の進め方は運営指導の準備で、指摘されやすい項目は運営指導で指摘される項目で個別に扱います。
- 運営指導の根拠
- 障害者総合支援法 第10条第1項、第11条第2項(行政指導)
- 監査の根拠
- 同法 第48条(報告等・立入検査)、第49条(勧告・命令)、第50条(指定の取消し等)
- 事前通知
- 運営指導は原則1か月前までに文書。監査は監査開始時に文書で足り、当日でも差し支えない
- 監査へ変更する事由
- ①著しい基準違反 ②請求の不正 ③不正の手段による指定 ④障害者虐待等による生命・身体への危害(いずれも疑いを含む)
- 勧告できる範囲
- 人員基準違反・運営基準違反・便宜提供義務違反に限られる。人格尊重義務違反と不正請求は勧告の対象外
- 経済上の措置
- 返還させるべき額に加え、原則としてその額の100分の40を併せて徴収(法第8条第2項)
よくある質問
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