処遇改善加算ⅠとⅡの違いは
配置等要件だけ
上位区分は取りに行くべきか
令和8年6月以降の福祉・介護職員等処遇改善加算で、加算Ⅰイと加算Ⅱイの算定要件の違いは、キャリアパス要件Ⅴ(配置等要件)を満たすかどうかの1点だけです。配置等要件とは福祉専門職員配置等加算(居宅介護・重度訪問介護・同行援護・行動援護では特定事業所加算)の届出を行っていることを指し、加算Ⅱイはこれを満たさなくても算定できます。ほかの6つの要件(月額賃金改善要件、キャリアパス要件ⅠからⅣ、職場環境等要件)はどちらも同じです。加算率の差は小さく、就労継続支援B型では加算Ⅰイ10.5%に対して加算Ⅱイ10.3%の0.2ポイントにとどまります(2026年8月16日時点)。
一方で、加算Ⅲから加算Ⅱイへ、加算Ⅳから加算Ⅲへ上げるときの差は1.4から1.5ポイントあり、ⅠとⅡの差の7倍以上になります。上位区分を狙うなら、まずどの段を上がろうとしているのかを確かめたほうが費用対効果を見誤りません。
- 加算Ⅰイと加算Ⅱイの要件の差
- キャリアパス要件Ⅴ(配置等要件)のみ。ほかの要件はすべて共通
- 配置等要件の中身
- 福祉専門職員配置等加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲのいずれかの届出を行っていること(居宅介護・重度訪問介護・同行援護・行動援護は特定事業所加算の届出)
- 加算率の差(就労継続支援B型・令和8年6月以降)
- Ⅰイ10.5%/Ⅰロ10.9%/Ⅱイ10.3%/Ⅱロ10.7%/Ⅲ8.8%/Ⅳ7.4%
- 差が大きい段
- Ⅳ→Ⅲが1.4ポイント、Ⅲ→Ⅱイが1.5ポイント、Ⅱイ→Ⅰイは0.2ポイント
- 加算率を乗じる対象
- 処遇改善加算を除く1月当たりの総単位数(1日当たりではない)
- イとロの違い
- ロは令和8年度特例要件(生産性向上5項目または社会福祉連携推進法人への所属+基本給等への充当)を追加で満たす区分
目次
区分の呼び方が令和8年6月に変わっている
まず前提を揃えておきます。令和8年度は令和9年度報酬改定を待たずに実施された期中改定の年で、同じ年度内でも4月・5月と6月以降で区分の構成が違います。4月・5月はⅠ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳの4区分ですが、6月以降はⅠイ・Ⅰロ・Ⅱイ・Ⅱロ・Ⅲ・Ⅳの6区分になりました。ロが付く2つが新設分です。経過措置区分だった加算Ⅴは令和7年3月31日までの措置で、今回の告示改正で規定そのものが削られています。
令和7年度以前の解説記事は区分の数から違っている可能性があります。以下は令和8年6月1日から適用される内容です。
ⅠとⅡを分けているのは要件ひとつ
通知は要件を8つに整理しています。①月額賃金改善要件、②から⑥のキャリアパス要件ⅠからⅤ、⑦職場環境等要件、⑧令和8年度特例要件です。加算Ⅰイはこのうち①から⑦をすべて満たすことが条件で、そこから区分が下がるにつれて免除される要件が増えていく構造になっています。
| 区分 | 満たさなくてよい要件 | 実質的な追加負担 |
|---|---|---|
| Ⅰイ | なし(①〜⑦すべて必要) | 配置等要件まで満たす |
| Ⅰロ | なし(①〜⑦+⑧特例要件) | Ⅰイに生産性向上5項目等を追加 |
| Ⅱイ | ⑥キャリアパス要件Ⅴ | 配置等要件が不要 |
| Ⅱロ | ⑥キャリアパス要件Ⅴ(+⑧が必要) | Ⅱイに生産性向上5項目等を追加 |
| Ⅲ | ⑤キャリアパス要件Ⅳ、⑥同Ⅴ | 年額460万円の職員も不要 |
| Ⅳ | ④キャリアパス要件Ⅲ、⑤同Ⅳ、⑥同Ⅴ | 昇給の仕組みの整備も不要 |
つまり加算Ⅰと加算Ⅱの違いは、キャリアパス要件Ⅴ(配置等要件)だけです。賃金改善のルールも、キャリアパス要件ⅠからⅣも、職場環境等要件のレベルも、ⅠとⅡで完全に同じです。「Ⅰは要件が厳しくてとても無理」と考えて最初から外している事業所は、実際には要件1つ分の距離しか離れていない可能性があります。
配置等要件の中身は、福祉専門職員配置等加算の届出を行っていることです。居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護では特定事業所加算の届出を指します。なお重度障害者等包括支援、施設入所支援、短期入所、就労定着支援、居宅訪問型児童発達支援、保育所等訪問支援は、そもそも配置等要件に関する加算が設定されていないため配置等要件は不要とされ、加算Ⅱイ・Ⅱロの加算率自体が設定されていません。
上げる段によって増収額が7倍違う
肝心の加算率です。加算率は1月当たりの総単位数に乗じる率で、1日当たりでも月額の定額でもありません。就労継続支援B型を例に、令和8年6月以降の率を並べます。
| 区分 | 加算率(B型) | 前の段からの差 |
|---|---|---|
| Ⅳ | 7.4% | ― |
| Ⅲ | 8.8% | +1.4ポイント |
| Ⅱイ | 10.3% | +1.5ポイント |
| Ⅱロ | 10.7% | +0.4ポイント |
| Ⅰイ | 10.5% | Ⅱイから+0.2ポイント |
| Ⅰロ | 10.9% | Ⅰイから+0.4ポイント |
ここで目を引くのは、加算Ⅱロ(10.7%)が加算Ⅰイ(10.5%)を上回っている点です。配置等要件を満たせなくても、令和8年度特例要件を取りにいけば加算Ⅰイより高い率になります。これはB型だけの現象ではなく、生活介護、療養介護、自立訓練、就労移行支援、共同生活援助、児童発達支援、放課後等デイサービスなど多くのサービスで同じ逆転が起きます。例外は居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護の訪問系4サービスで、ここだけは加算Ⅰイのほうが高くなります。
金額に置き換えます。以下は当サイトによる試算で、国が示した数値ではありません。 1月当たりの総単位数(処遇改善加算を除く)を28万単位、1単位10円と仮定した場合の年額です。単位数も地域区分による単価も事業所ごとに違うので、必ず自事業所の実績値で計算し直してください。
| 引き上げる段 | 年間の増収見込み |
|---|---|
| Ⅳ → Ⅲ | 約47.0万円 |
| Ⅲ → Ⅱイ | 約50.4万円 |
| Ⅱイ → Ⅰイ | 約6.7万円 |
| Ⅱイ → Ⅱロ | 約13.4万円 |
| Ⅰイ → Ⅰロ | 約13.4万円 |
ⅣからⅢ、ⅢからⅡイの2段は年50万円前後動きますが、ⅡイからⅠイは7万円弱です。ここに人件費をかけて有資格者を採用するのは、加算率だけを見れば割に合いません。判断が変わるのは、届け出る福祉専門職員配置等加算そのものの報酬が別途入ってくる点を勘定に入れたときです。処遇改善加算の区分アップは、福祉専門職員配置等加算を取ることの副産物として考えるほうが実態に近くなります。加算率を自事業所の総単位数に当てはめる手順は処遇改善加算の計算方法で詳しく扱っています。
要件を満たすために増える事務は何か
増収額の反対側にある負担も並べておきます。加算Ⅳから加算Ⅲに上げるにはキャリアパス要件Ⅲが必要で、経験に応じた昇給、資格等に応じた昇給、人事評価などの一定の基準による定期判定のいずれかの仕組みを設け、就業規則等の書面で整備して全ての福祉・介護職員に周知します。常時雇用する者が10人未満で就業規則の作成義務がない事業所は、内規等の整備と周知で足ります。昇給の方式は基本給でも手当でも賞与でもかまいません。
加算Ⅲから加算Ⅱイに上げるにはキャリアパス要件Ⅳが加わります。経験・技能のある福祉・介護職員のうち1人以上について、賃金改善後の見込額が年額460万円以上であることが原則です。ただし職場環境等要件の28項目のうち全体から14以上の取組を実施している場合は、この要件を満たしているものとして扱われます。人件費を動かさずに要件を通せる余地があるということです。
さらに加算Ⅰ・Ⅱでは職場環境等要件のレベルが上がります。加算Ⅲ・Ⅳが「生産性向上を除く5区分ごとに1以上、生産性向上区分から2以上、あわせて全体で8以上」なのに対し、加算Ⅰ・Ⅱは「5区分ごとに2以上、生産性向上区分から3以上(⑱の現場の課題の見える化は必須)」です。加えて加算Ⅰ・Ⅱでは、職場環境等の改善に係る取組を障害福祉サービス等情報公表制度などで公表し、実施した取組項目と具体的な取組内容を記載する義務が生じます。一度書いたら実態と合わせ続ける必要がある部分です。要件の全体像は処遇改善加算の要件に整理しています。
ロ区分を狙う場合の令和8年度特例要件は、(ア)生産性向上区分から5以上の取組(⑱と㉑が必須)または(イ)社会福祉連携推進法人への所属、のいずれかに加えて、(ウ)加算Ⅱロの加算額の2分の1以上を基本給等の改善に充てることが必要です。㉑は業務支援ソフトや情報端末の導入なので、記録システムを入れている事業所なら実質的に済んでいることが多い項目です。
上位区分を検討するときは、加算率の比較より先に直接処遇職員の名簿を1枚作ってしまうほうが早く判断できます。福祉専門職員配置等加算は、常勤の直接処遇職員に占める社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士・公認心理師の割合が35%以上でⅠ、25%以上でⅡですが、Ⅲには資格を問わないルートがあり、直接処遇職員(常勤換算)に占める常勤職員の割合が75%以上、または常勤の直接処遇職員のうち3年以上従事している者の割合が30%以上のいずれかで届出ができます。キャリアパス要件Ⅴはこの加算の「届出を行っていること」を求めるだけなので、ⅠでもⅢでも要件は通ります。名簿に常勤か否かと勤続年数を書き入れて数えれば、採用をせずに配置等要件へ届くかどうかがその場で分かります。届かない場合、訪問系以外のサービスであれば加算Ⅰイを追わずに加算Ⅱロへ回すほうが加算率は高くなります。
※これは制度上の必須要件ではなく、一次情報から導ける運用例です。
判断の順番
加算Ⅳを算定しているなら、キャリアパス要件Ⅲの整備で加算Ⅲへ上げるのが最も費用対効果の高い一手です。次に加算Ⅲなら、職場環境等要件を全体14以上まで積むことでキャリアパス要件Ⅳをクリアし、加算Ⅱイへ上げられないかを見ます。ここまでで年間100万円規模が動きます。加算Ⅱイに到達したら配置等要件を満たせるかどうかで分岐し、満たせるなら加算Ⅰイ、満たせず訪問系以外のサービスなら生産性向上の取組を5項目まで積んで加算Ⅱロを狙う、という順です。訪問系4サービスでは加算Ⅰイが最上位になるため、特定事業所加算の届出を先に検討することになります。
最後に注意点をひとつ。加算区分を上げれば加算額は増えますが、増えた分は職員の賃金改善に充てる義務が発生します。令和7年度と比べて令和8年度に増加した加算額については、過去の賃金改善の実績に関わらず新規に賃金改善を行う必要があり、その新規分はベースアップにより行うことが基本とされています。増収がそのまま利益になるわけではないので、区分を上げる判断は賃金原資をどこまで増やす意思があるかとセットで考えることになります。年度途中で区分を上げる場合の変更の届出は、算定を開始する月の前月15日までです。提出方法や自治体独自の締切は指定権者によって異なるため、動く前に確認してください。
事業所数も定員も、都道府県でかなり違います。全国の就労継続支援B型は20,783事業所で、前回の公表から+874事業所でした(WAM NET 2026年3月31日時点)。自分の県の事業所数・定員・平均工賃は都道府県別データで確認できます。
47都道府県のデータを見る →よくある質問
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