現役の事業所運営者が書く、障害福祉の経営誌

処遇改善加算は基本給に含めるべきか
手当・一時金との制度上の違いと
「あとから下げられない」問題

最終更新制度基準日
執筆:福祉経営ナビ編集部
監修:徳永 崇志(現役の就労継続支援B型事業所運営者)
初回公開
結論

処遇改善加算をどの賃金項目で配分するかは事業者の判断ですが、制度上の下限があります。月額賃金改善要件により、処遇改善加算Ⅳの加算額の2分の1以上は基本給等(基本給または決まって毎月支払われる手当)の改善に充てなければなりません。全額を賞与や一時金で配ると、この要件を満たしません(令和8年度の届出から適用される事務処理手順通知に基づく要件)。

国の通知は「安定的な処遇改善が重要であることから、基本給による賃金改善が望ましい」としています。一方で、基本給に入れた分は特別事情届出書を届け出る場合を除いて水準を下げられないため、加算率が変動したときに戻す余地が小さくなります。この不可逆性を織り込んだうえで、基本給・毎月の手当・一時金の3層に分けて設計するのが実務的な組み立てになります。

基本給等で改善すべき最低額
加算Ⅳの加算額の2分の1以上(加算Ⅳ以外を算定する場合は、仮に加算Ⅳを算定した場合に見込まれる加算額の2分の1以上)
「基本給等」の範囲
基本給、または決まって毎月支払われる手当。通勤手当・扶養手当、月ごとに支払の有無が変動する手当は含まない
令和7年度からの増加分
過去の実績に関わらず新規に賃金改善が必要。ベースアップ(賃金表の改訂による基本給等の一律引上げ)で行うことが基本
加算Ⅰロ・Ⅱロを算定する場合
上記に加えて、加算Ⅱロの加算額の2分の1以上を基本給等の改善に充てることが必要(令和8年6月以降)
引下げの制限
特別事情届出書を届け出る場合を除き、特定した項目を含め賃金水準を低下させてはならない
制度基準日2026.06.01
根拠:厚生労働省・こども家庭庁「福祉・介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」(令和8年度分)
目次

制度が縛っているのは「金額」と「一部の項目」だけ

通知は、賃金改善は基本給、手当、賞与等のうち対象とする項目を特定したうえで行うものとし、その配分を事業者の判断に委ねています。同時に、安定的な処遇改善が重要であることから基本給による賃金改善が望ましいとも書いています。

「望ましい」は努力目標であって、基本給に入れないと加算が算定できないわけではありません。ただし月額賃金改善要件が実質的な下限を設けているため、一時金だけで配るという選択肢は制度上取れません。

「基本給等」に入るもの、入らないもの

要件のカウントに使えるのは「基本給等」、すなわち基本給または決まって毎月支払われる手当です。何がここに入るかは国のQ&Aで整理されています。

賃金項目「基本給等」に当たるか根拠
月給の基本給の引上げ当たる通知 記2(2)の「基本給等」の定義
時給・日給の引上げ当たる(基本給の引上げとして取り扱う)Q&A 問1-4
職能手当・資格手当・役職手当・地域手当など毎月支払う手当当たる(名称は問わない)Q&A 問1-3
月ごとに支払われるか否かが変動する手当当たらないQ&A 問1-3
通勤手当・扶養手当当たらないQ&A 問1-3
賞与・一時金当たらない通知 記2(2)の「基本給等」の定義

「当たらない」ものも賃金改善の総額そのものには算入できます。加算額に相当する賃金改善という大枠は満たせるが、要件の分子には数えられないという関係です。

基本給等で出すべき下限は区分によって二段構えになる

令和8年度は、算定する区分によって基本給等で行うべき額が変わります。

算定する区分基本給等の改善に充てるべき額
加算Ⅳ加算Ⅳの加算額の2分の1以上
加算Ⅲ・Ⅱイ・Ⅰイ仮に加算Ⅳを算定した場合に見込まれる加算額の2分の1以上
加算Ⅱロ・Ⅰロ(令和8年6月以降)上記に加えて、加算Ⅱロの加算額の2分の1以上

上乗せ区分のⅠロ・Ⅱロを取る場合は、令和8年度特例要件の(ウ)として加算Ⅱロの加算額の2分の1以上を基本給等に充てることが加わります。重度障害者等包括支援、施設入所支援、短期入所、就労定着支援、居宅訪問型児童発達支援、保育所等訪問支援は加算Ⅱロの加算率がないため、加算Ⅰロの加算額の2分の1以上に読み替えます。要件の全体像は処遇改善加算の算定要件で扱っています。

この下限を満たすために賃金総額を新たに増やす必要はありません。加算を未算定の事業所が新規に算定し始める場合を除き、基本給等以外の手当や一時金で行っている賃金改善の一部を減額し、その分を基本給等に付け替えることで要件を満たして差し支えないとされています。ただし国のQ&A 問3は、付け替えの結果として事業所全体の賃金水準が下がらないようにするだけでなく、各職員の賃金水準が低下しないよう努めることを求めています。

増えた分はベースアップが基本になる

令和7年度と比較して令和8年度に増加した加算額は、過去の賃金改善の実績に関わらず新規に賃金改善を行わなければならず、その新規分はベースアップにより行うことが基本とされています。通知はベースアップを「賃金表の改訂により基本給又は決まって毎月支払われる手当の額を変更し、賃金水準を一律に引き上げること」と定義しており、個別査定による昇給とは区別しています。

賃金体系を整備している途中であるなどベースアップのみでは対応できない場合は、その他の手当や一時金を組み合わせても差し支えありません。処遇改善計画書(別紙様式2-1)は増加分の配分をベースアップによる額とそれ以外の手当・一時金等による額に分けて記入させる構成なので、どちらでいくら出すかは様式に着手する前に決めておくことになります。加算額の計算は処遇改善加算の計算方法を参照してください。

基本給に入れた分は、あとから下げにくい

ここが経営判断として最も重い論点です。通知は、賃金改善の対象として特定した項目を含め、特別事情届出書(別紙様式5)を届け出る場合を除いて賃金水準を低下させてはならないと定めています。届出をせずに引下げを行えば、加算の返還または取消しの対象になります。

届出書に書くのは、収支が赤字である等の経営悪化の状況、賃金水準の引下げの内容、経営と賃金水準の改善の見込み、労使の合意の時期と方法等の4項目です。国のQ&A 問1-12は、引下げの要因である特別な状況が改善したら可能な限り速やかに引下げ前の水準に戻す必要があるとしています。

ただし、賃金全体の水準が下がっていなければ、個々の賃金項目の水準が低下しても届出は不要です(問1-12)。一部の職員だけ引き下げた場合も全体が低下していなければ届出は要りませんが、Q&A 問1-13は「一部の職員の賃金水準を引き下げることは不利益変更に当たると考えられる」として、合理的な理由に基づく適切な労使の合意を求めています。

制度の側から言えるのはここまでです。どこまでが有効な変更かは労働契約上の判断になるため、賃金規程の改定を伴う設計は社会保険労務士などに確認しながら進めることになります。手当なら自由に下げられるという意味ではない点も同じです。

就業規則・賃金規程に何を残すか

キャリアパス要件Ⅰは、職位・職責・職務内容等に応じた任用等の要件とそれに応じた賃金体系を定め、就業規則等の明確な根拠規程として書面で整備し、全ての福祉・介護職員に周知することを求めています。キャリアパス要件Ⅲの昇給の仕組みも同様に書面整備と周知が必要です。昇給の方式自体は基本給・手当・賞与等を問いませんが、Q&A 問4-7は基本給によるものが望ましいとしています。常時雇用する者が10人未満など就業規則の作成義務がない事業所は、内規等の整備・周知でも差し支えありません。

実務ではこう組めます

配分の設計は、金額の下限を先に固定してから残りを振り分ける順番で進めると迷いません。

  1. 加算Ⅳ相当額の2分の1を計算し、基本給等で出す下限額を確定する。Ⅰロ・Ⅱロを狙う場合は加算Ⅱロ相当額の2分の1も並行して計算し、大きいほうを下限とする。
  2. 下限を超える部分を、ベースアップで出す額と手当・一時金で出す額に分ける。計画書はこの2つを別の欄に書かせるため、曖昧なまま様式に着手すると手戻りになる。
  3. 賃金表や賃金規程を改める場合は改訂内容を書面にして職員に周知し、就業規則を改訂したときは改訂の概要を変更届出書に記載して提出する。
  4. 通知8(1)は、職員からの照会に書面を用いるなど分かりやすく回答することを求めている。1人当たりの改善額の内訳を残しておく。

※これは制度上の必須要件ではなく、一次情報から導ける運用例です。

計画書と実績報告書、その根拠資料は2年間保管し、指定権者から求めがあれば速やかに提示します。保管対象には労働基準法第89条に規定する就業規則等が含まれます。職種間の配分は処遇改善加算の職員への配分で扱っています。

よくある質問

Q. 処遇改善加算を全額、賞与や一時金で配ってもよいですか?
A. いいえ、全額を賞与・一時金にすると月額賃金改善要件を満たしません。加算Ⅳの加算額の2分の1以上は基本給または決まって毎月支払われる手当で改善する必要があり、加算Ⅳ以外の区分を算定する場合も、仮に加算Ⅳを算定した場合に見込まれる加算額の2分の1以上が基準になります。残りの部分の配分は事業者の判断ですが、令和7年度から増加した加算額についてはベースアップにより賃金改善を行うことが基本とされています。
Q. 通勤手当や扶養手当を増額した分は「基本給等」に数えられますか?
A. いいえ、数えられません。国のQ&A(令和8年4月9日事務連絡 問1-3)は、通勤手当・扶養手当のように労働と直接的な関係が薄く労働者の個人的事情により支給される手当は「決まって毎月支払われる手当」に含まれないとしています。月ごとに支払われるか否かが変動する手当も同様です。ただし賃金改善の総額そのものには算入して差し支えありません。
Q. 時給を引き上げた場合は基本給の引上げになりますか?
A. はい、なります。国のQ&A(問1-4)は、基本給が時給制の職員の時給引上げ、日給制の職員の日給引上げを、基本給の引上げとして取り扱って差し支えないとしています。時給や日給への上乗せの形で支給される手当は「決まって毎月支払われる手当」と同等に扱われます。
Q. 加算率が下がったら、上げた基本給を下げられますか?
A. 条件付きです。通知は、特別事情届出書を届け出る場合を除き、賃金改善の対象として特定した項目を含めて賃金水準を低下させてはならないとしています。特別事情届出書には経営悪化の状況、引下げの内容、改善の見込み、労使の合意の時期と方法等を記載します。国のQ&A(問1-11)は、経営悪化などの理由があっても引下げには合理的な理由に基づく適切な労使の合意が必要としており、実際の可否は労働契約上の判断を伴うため社会保険労務士等への確認が必要です。
Q. 処遇改善加算のために就業規則を変えたら、届け出は必要ですか?
A. はい、必要です。通知5(1)⑥は、福祉・介護職員の処遇に関する内容について就業規則を改訂した場合、改訂の概要を変更届出書(別紙様式4)に記載して提出することとしています。就業規則の改訂のみが変更内容である場合は、実績報告書を提出する際に併せて届け出ます。
この記事の根拠資料
最終確認:2026.08.16

この記事の更新履歴

2026.08.16初回公開
執筆・監修
徳永 崇志

徳永 崇志

現役の就労継続支援B型事業所運営者

埼玉県志木市で実際にB型事業所を運営しています。

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