障害者虐待防止法が事業所に
求める義務。通報の範囲と、
発見したときの動き方
障害者虐待防止法(平成23年法律第79号、平成24年10月1日施行)は、障害福祉サービス事業所に対して、虐待を発見した者による市町村への通報義務を課しています。義務が生じるのは「障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した」時点で、虐待だと確定していなくても通報しなければなりません(第16条第1項)。義務を負うのは発見した者すべてで、外部の人だけでなく職員も、職員から相談を受けて疑いを感じた管理者やサービス管理責任者も同じです。通報した職員は守秘義務規定を理由に妨げられず、通報を理由とする解雇その他の不利益な取扱いも禁じられています(同条第3項・第4項)。市町村は通報を受けると都道府県に報告し(第17条)、市町村長または都道府県知事が社会福祉法や障害者総合支援法の権限を行使して事実確認と改善指導にあたります(第19条)。2026年8月16日時点で有効な内容です。
目次
「障害者福祉施設従事者等」に相談支援も移動支援も入る
障害者虐待防止法が定める虐待は3種類あります。養護者によるもの、障害者福祉施設従事者等によるもの、使用者によるものです(第2条第2項)。事業所の経営として直接効いてくるのは2つ目ですが、就労継続支援A型のように利用者と雇用契約を結ぶ場合は3つ目も関係します。
「障害者福祉施設従事者等」の範囲は第2条第4項に列挙されています。障害者支援施設とのぞみの園に加えて、障害福祉サービス事業、一般相談支援事業と特定相談支援事業、移動支援事業、地域活動支援センターを経営する事業、福祉ホームを経営する事業などが対象で、手引きはここに障害児通所支援事業と障害児相談支援事業も並べています。条文はこれらの事業に「係る業務に従事する者」と定めているだけなので、直接支援に当たる職員に限られません。対象となる「障害者」の側も、障害者基本法第2条第1号の定義がそのまま使われる結果、手帳を取得していない人や18歳未満の人を含みます。
5つの類型は条文にそのまま並んでいる
行為の類型は第2条第7項に第1号から第5号まで置かれています。身体的虐待といった呼び名は条文にはなく、厚生労働省の手引きや全国調査が整理のために使っているものです。
| 類型(手引きの呼称) | 条文の定義(第2条第7項) |
|---|---|
| 身体的虐待(第1号) | 身体に外傷が生じ、もしくは生じるおそれのある暴行を加え、または正当な理由なく身体を拘束すること |
| 性的虐待(第2号) | わいせつな行為をすること、またはわいせつな行為をさせること |
| 心理的虐待(第3号) | 著しい暴言、著しく拒絶的な対応または不当な差別的言動その他の著しい心理的外傷を与える言動を行うこと |
| 放棄・放置(第4号) | 衰弱させるような著しい減食または長時間の放置、他の障害者による第1号から第3号までと同様の行為の放置その他の養護すべき職務上の義務を著しく怠ること |
| 経済的虐待(第5号) | 財産を不当に処分することその他不当に財産上の利益を得ること |
経営の観点で見落としやすいのは第1号と第4号です。第1号は「正当な理由なく身体を拘束すること」を身体的虐待の中に取り込んでいるので、記録も手続きもないまま行われた身体拘束はそのまま虐待の定義に入ります。指定基準側の要件は身体拘束の適正化で整理しました。第4号は、他の利用者による行為を職員が放置することを明示的に含んでいます。利用者どうしのトラブルを「本人たちの問題」として処理する運用は、この号に当たる余地があります。
通報義務は「疑い」の段階で発生する
第16条第1項は、通報義務の対象を「障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者」と定めています。虐待だと確定した場合に限られていません。手引きは、明らかに虐待を受けた場面を目撃した場合だけでなく、虐待を受けたのではないかと疑いを持った場合は事実が確認できなくても通報する義務があると説明しています。虐待かどうかを認定するのは通報を受けた側であって、事業所ではないという建て付けです。
義務を負うのは「発見した者」なので、家族や外部の関係者だけでなく、同じ事業所の職員も含まれます。ここから先が経営者にとって重要な部分で、手引きは、管理者やサービス管理責任者等が内部で起きた虐待の疑いについて職員から相談を受け、相談内容や利用者の様子から疑いを感じた場合には、相談を受けた管理者等にも通報義務が生じると書いています。報告を受けて事業所の中だけで事実確認を進め、事態を収束させてしまうと通報義務に反します。
通報先は市町村です。手引きは、実務上は虐待を受けた利用者の支給決定をした市町村の窓口に通報するとしています。市町村は障害者の福祉に関する事務を所掌する部局または施設が市町村障害者虐待防止センターとしての機能を果たすこととされており、その業務の全部または一部を委託している自治体もあります(第32条・第33条)。
なお、就労継続支援A型のように雇用契約に基づく場面で生じた使用者による障害者虐待は、通報先が市町村または都道府県のどちらでもよく(第22条第1項)、都道府県から都道府県労働局に報告が上がります(第24条)。同じ法人でも通報のルートが変わるので、A型とB型を併設している場合はあらかじめ整理しておく必要があります。
通報した職員を守る規定は3本ある
通報をためらわせる要因のほとんどは、通報したことが事業所に知られて不利益を受けるのではないかという不安です。法律はこれに3つの規定で応えています。
第一に、刑法の秘密漏示罪その他の守秘義務に関する法律の規定は、通報を妨げるものと解釈してはならないとされています(第16条第3項)。虚偽によるものと過失によるものは除かれます。第二に、障害者福祉施設従事者等は通報したことを理由として解雇その他不利益な取扱いを受けません(同条第4項)。手引きは、これに該当する法律行為は民事上無効と解されるとしています。第三に、通報を受けた市町村の職員と、報告を受けた都道府県の職員は、職務上知り得た事項のうち通報者を特定させるものを漏らしてはなりません(第18条)。通報の受理業務を市町村から委託された事業者にも同じ義務がかかります(第33条第3項)。手引きは、匿名での通報も可能であることを研修等を通じて職員に伝えるよう求めています。
一方で、通報しなかったこと自体を罰する規定は障害者虐待防止法に置かれていません。罰則は委託先の秘密漏示と、養護者による虐待の立入調査の拒否に関するものだけです(第45条・第46条)。ただし、通報せずに済むという意味ではありません。市町村・都道府県が障害者総合支援法に基づいて行う報告徴収や立入検査に対して虚偽の答弁をしたり検査を妨げたりすれば、同法第111条により30万円以下の罰金の対象になり、同法第50条第1項などにより指定の効力停止や取消しの対象にもなります。
通報を受けた市町村と都道府県は何をするのか
市町村は通報や届出を受けると、その内容を事業所所在地の都道府県に報告しなければなりません(第17条)。そのうえで市町村長または都道府県知事が、社会福祉法や障害者総合支援法等の規定による権限を適切に行使することとされています(第19条)。手引きによれば、まず報告徴収等による事実確認が行われ、虐待が認められた場合には改善指導が行われます。指導の例として挙げられているのは、虐待防止改善計画の作成、第三者による虐待防止のための委員会の設置、改善計画に沿って事業が行われているかを第三者委員が定期的にチェックすることです。
事業所の側に求められるのは調査への協力です。手引きは、聞き取りを受ける利用者や家族が安心して話せる場所を提供すること、勤務表・個別支援計画・介護記録等の提出に最大限協力することを挙げています。運営指導の側から見ると、虐待が疑われている事業所には事前通知なしで指導に入ることができ、虐待等により利用者の生命または身体の安全に危害を及ぼしている疑いがあれば、運営指導は中止されて監査に切り替わります(運営指導と監査の違い)。
令和6年度に虐待の事実が認められた1,267件に対して、実際に行使された権限は次のとおりです。
| 市区町村・都道府県の対応(令和6年度) | 件数 |
|---|---|
| 報告徴収、出頭要請、質問、立入検査 | 262 |
| 改善勧告 | 77 |
| 改善勧告に従わない場合の公表 | 10 |
| 改善命令 | 15 |
| 指定の効力の全部または一部停止 | 32 |
| 指定取消 | 5 |
| (上記の合計) | 401 |
| 都道府県等による一般指導 | 386 |
| 事業所からの改善計画の提出 | 1,027 |
| 管理者・経営層を事業に関与させない指導や助言 | 42 |
指定取消の5件は、虐待行為のほか人員配置基準違反や不正請求等の違反行為も理由として行われたものだと報告書に注記されています。目を引くのは最終行で、管理者や経営層を事業から外す方向の指導が現に行われています。
職員が異変に気づいたときに迷わない状態をつくるには、通報の順路をあらかじめ紙にしておくのが早いです。手引きが示す順路は、現場の職員が発見したら速やかに市町村の窓口へ通報する、事業所が「通報の手順」を定めている場合は直属の上司や管理責任者に報告して通報してもらってもよい、報告したのに通報されなければ期間を置かずに自ら通報する、という三段です。三段目まで書いておかないと、上司に上げたところで止まります。
管理者の側の手順も、同じ紙に並べて決めておく必要があります。報告を受けたら虐待だと明確に判断できない場合でも速やかに通報し、あわせて法人の理事長へ報告して臨時理事会の要否を検討する。利用者の安全確保を最優先にして、事実関係が明らかになるまでの間は当該職員を直接支援以外の部署に移すか出勤停止とする。時系列の記録を残し、行政の事実確認に備えて勤務表・個別支援計画・介護記録の類をすぐ出せるようにしておく。ここまでが手引きに書かれている内容で、事業所ごとの判断が入る余地はほとんどありません。
通報先の窓口名と電話番号は、指定権者の市町村に確認したうえで掲示物に載せておくと、職員が探さずに済みます。市町村障害者虐待防止センターの機能を委託している自治体があり、直営か委託かで連絡先が変わります。
※これは制度上の必須要件ではなく、一次情報から導ける運用例です。
令和6年度の数字が示していること
厚生労働省が令和7年12月に公表した全国調査によると、令和6年度に全国の1,741市区町村と47都道府県が受け付けた障害者福祉施設従事者等による虐待の相談・通報は5,870件で、虐待の事実が認められたのは1,267件、被虐待者は2,010人でした。虐待が認められた事業所の種別は共同生活援助が31.6%で最も多く、障害者支援施設19.2%、放課後等デイサービス12.4%、生活介護11.3%、就労継続支援B型7.8%と続きます。
読み方を変える必要があるのは、次の2つの数字の組み合わせです。相談・通報の入り口を見ると、最も多いのは「当該施設・事業所職員」による通報で20.5%、次いで「当該施設・事業所の設置者・管理者」による通報が16.5%、本人による届出が13.8%、家族・親族による通報が10.0%です(1件に複数の通報者がある場合はそれぞれ計上されるため、合計は100%になりません)。事業所の内側から出た通報が、家族・親族からの通報を大きく上回っています。一方、虐待の事実が認められた1,267件について事実確認調査時に確認された取組を見ると、職員に対する虐待防止研修の実施が69.4%、虐待防止委員会の開催と検討結果の周知が59.7%あるのに対して、通報義務の履行は51.5%にとどまります。
研修も委員会も動いている事業所で虐待は起きており、そのうち半分近くは通報義務が果たされていなかったということです。委員会と研修を回すこと自体は虐待防止体制の整備として指定基準上の義務ですが、それをそろえても通報の判断とは別物だという結果が出ています。
なお、通報の受理や事実確認の運用は市町村ごとに幅があります。自事業所の通報先と手順は、指定権者と支給決定を行う市町村の障害福祉担当課に確認してください。
- 通報義務が生じる水準
- 「虐待を受けたと思われる障害者を発見した」時点。事実が確認できていなくても通報する(第16条第1項)
- 通報先
- 市町村。実務上は虐待を受けた利用者の支給決定をした市町村の窓口(市町村障害者虐待防止センター)
- 虐待の5類型
- 身体的虐待(正当な理由のない身体拘束を含む)/性的虐待/心理的虐待(不当な差別的言動を含む)/放棄・放置/経済的虐待(第2条第7項第1号〜第5号)
- 通報者の保護
- 守秘義務規定は通報を妨げない(第16条第3項)/通報を理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止(同条第4項)/通報者を特定させる事項を市町村・都道府県の職員が漏らすことの禁止(第18条)
- 通報義務違反の罰則
- 障害者虐待防止法に通報しなかったこと自体への罰則はない。ただし立入検査での虚偽答弁や検査拒否は障害者総合支援法第111条で30万円以下の罰金、同法第50条等により指定の効力停止・取消しの対象になりうる
- 通報後の流れ
- 市町村が都道府県に報告(第17条)→ 市町村・都道府県が事実確認 → 虐待が認められれば改善指導、従わない場合は勧告・命令・指定の取消し等(第19条)
- 都道府県による公表
- 都道府県知事は毎年度、虐待の状況、採った措置、施設等の種別、従事者の職種を公表する(第20条)
よくある質問
自分の地域には、
どれくらい利用者候補がいる?
所在地をもとに、周辺人口・障害福祉事業所数・紹介元になる相談支援事業所の数などを簡易集計します。これから開設する方には出せる場所と参入余地を、すでに運営している方には商圏内の競合と紹介元の分布を、目的にあわせて整理します。
その場でダウンロードできる資料ではありません。いただいた内容をもとに1件ずつ作成し、2〜3営業日以内にメールでお送りします。
